WORKSHOP ART & DESIGN

アート&デザイン教室の監修と指導 −−継続的ワークショップの可能性−−

(2012年 桑沢デザイン研究所 研究レポート「アート&デザイン教室の監修と指導」より抜粋)

35年間、様々な形でワークショップを展開してきたが、それらのほとんどが単発のワークショップか、多くても3回程度のボリュームで依頼されることが多かった。

そんな中で、ヤマハ株式会社の企画担当部署より長いスパンでのワークショップを展開することが可能かという相談を受けた。ヤマハ株式会社(以下ヤマハ)は現在、音楽教室と英語教室を全国で運営している。しかし多くの文化事業が、現代の閉塞感の中で立ち行かなくなっているのも確かで、文化事業に積極的に貢献してきたヤマハであれ、新展開の事業を模索したいとの旨であった。ヤマハが懸案しているのは、全国に数多くあ るヤマハが直接あるいは間接的に運営している教室 (スペース)の有効利用と、第3の教室としてヤマ ハ独自のアート教室を事業化出来るかどうかを探っ ていくことで、その可能性を私のワークショップ経 験を生かしてシミュレーションしてほしいとのこと だった。
 ヤマハが今回ヤマハでのシミュレーションを「アート教室」ではなく、「アート&デザイン教室」としたのは、他教室との区別化に「デザイン」というキーワードが必要だと考えたからである。
ここで、いわゆる「アート教室」と「アート&デザイン教室」の教育目的・指導効果にどんな違いを導き出そうとしているかを述べたい。

「アート&デザイン教室」の可能性
YAMAHA「アート&デザイン教室」ワークショップ・フライヤー
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■従来のアート教室

成果物(完成作品)へのこだわり
「きれいな風景が描けたね」、「かわいいお面が作れたね」、「面白い粘土作品ができたね」このように子どもの満足感をよそに、指導者も保護者も出来上がった内容に注目がいき、子ども自身の気持ちの中に持ち帰るべき何かについて注目することを忘れてしまう。また、成果物という判り易いお持ち帰り感覚も(親の)満足感として創作教室には必要になってくる。保護者は、作品の見た目や完成度に固執し、肝心の子どもたちの満足度、達成感、活性化などに気付かないまま終わってしまうことも多い。

制作方法の重視
もともと、ある程度見栄えのする作品を目指しているし、保護者もそれを期待するため、制作のための手順、方法、コツなどに要する時間が主になりがちで、子どもたちの制作への気持ちやアイデアを考える時間を奪うことになる。

■今回の「アート&デザイン教室

制作過程を重視
成果物にはあまりこだわらない。制作途中の子どもの反応や表情、言動、制作態度を大切にしてゆき、指導者はそこに集中して観察することが重要になってくる。つまり、子どもたちが上手に作ることに意味を持たせない。

プレゼンと講評
必ず、制作終了の後に時間をとり、子どもたちそれぞれに制作意図や感想をきく→これが講師のカリキュラム改善の要素になる。そして子どもたちのプレゼンをヒントにしながら、簡単なコメントをする。この時、褒めるだけでなく、的確なアドバイスをひとつだけする。

デザイン作品よりデザイン思考
アート&デザイン教室では表現技術より考え方や、ものの見方を育てていくことを主眼とし、これを保護者にも徹底して説明する。つまり、教室が終わって家に帰って家族に披露するものは作品より制作の説明や考え、感じたことなど。

社会との関わり
全てのカリキュラムが実際のアート・デザインの制作手順や考え方に則しており、教室での作業が実際の社会の多様なクリエイティブワークと繋がっていることを学ぶ場にする。

社会性の感覚教育
アート特にデザイン教育は社会性を学ばせるのに適している。実際のデザインワークは一人では出来ないし、様々な手続きやコミュニケーションが必要になってくる。マナーや規則、協調性など道徳教育ではない側面から子どもたちに社会を感じてもらうカリキュラムになっている。(特にカリキュラムに何回か設定されているグループ作業には、その効果が期待出来る)

子どもへのデザインワークショップの可能性

長年デザインを取り込んだワークショップを開催・指導してきて感じることは、やはり参加させる親たちが子どもの表現能力ばかりに目がいき、ワークショップ側にそれを期待することが多いことだ。これは、美術教室に行けば、絵がうまくなるという先入観あるいはうまくなるために美術教室へ行く、行かせるという当然の理由が一般の前提になっているからである。一般には、絵はうまく描ければ良い作品だと考えられているが、うまい絵と魅力的な作品は往々にして別物である。
「アート&デザイン教室」ではアートがうまくなることを期待してきた保護者に前述のことを説明し、アートやデザインへの既成概念を取っ払うことからスタートする。もちろん子どもにはそんな説明はいらない。彼らはテーマが面白くて魅力的であれば、どんどん制作するし、つまらなければ、何もしないだけである。「アート&デザイン教室」ではこのいちばん面倒な、親の既成概念を捨てさせることと、展開の意外性で子どもたちを飽きさせないカリキュラム作りを目指してきた。

自由創作を「デザイン」へ転化させて行く

子どもが面白がって作ったものを、そこで完結するのではなく、「トリミング」、「フレーミング」、「サイズアップ」などデザイン的操作を教えることで、こどもたちがひとつの作品の複合的な可能性を感じることになると信じている。

純粋行為からデザイン行為へ

純粋行為の代表的なものは「おしっこをすること」である。したいからするーこれは子どもの得意な所作だ。子どもは描きたいから描くし、作りたいから作る。多くのワークショップはこれを大切にし、それをできるだけ成果物に落とし込んで終了する。
「アート&デザイン教室」でも導入はまったく変わらない。しかし、純粋行為で制作されたものにも子どもなりの思いや主張があり、講師がそれを掬い上げていく作業が大切になる。そしてそれに簡単なデザイン行為を施すことによって、子どもたちの無目的制作物はデザイン的、用的作品へと変わり、子どももそれに気付いていく。
これは桑沢デザイン研究所の基礎造形教育そのものといってもよい。むしろ、基礎造形教育こそ新しいワークショップの骨組みをつくるのに適した材料であると感じている。
「アート&デザイン教室」で目指すところも、デザイン的創作を通じてデザイン技量を学ぶのではなく、社会に有用なデザイン的視点や発想、行動を培う場所になればと思っている。

おーくん・あきらのワークショップ YAMAHA「アート&デザイン教室」6ヶ月コース 進捗状況