大学教員時代の忙しい日々③
ボクは大学とは別にデザインの専門学校でも教えている。今日はその学校で、高校生たちを集めて学校の中身を知ってもらうという日なわけ。
講師であるコピーライターやデザイナーたちは作品を見せる。ボクは即興でライブ・ペインティングを実演した。
ボクは彼らにこんな話をした。
「デザイナーは、物が作れること以上に、人と接したり話したりすることのほうが重要なんだよ」
…反応がない。最近の若い人達の傾向。聞いてるのか聞いてないのかわからない。ボクから言わせると、まったく「デザイナー的」じゃない。しかし普通、たとえわかんなくても相槌くらい打つだろうに。
毎年、新入生の着ているもので現在の日本の経済動向が読める。今年は特にドンヨリ。黒一色に限りなく近い。暗い。
それにしても以前はもう少し明るくて個性的な服装の子がいたものだが…。
ボクはベージュの麻のスーツ。ひとりで目立ってしまった。
大学では初顔合わせだからといってゴチャゴチャ言ったりしない。いきなり講義に入るものだけど。ただ、毎年「デザイナーはこんなにいい世界。でもたいへん」という飴と鞭の話をして、彼女たちの気持ちを喚起させてみる。
さて、今年はどんな学生が育ってくれるか?
3年ほど前、教え子に一冊の絵本をもらった。
「アンジュール」というタイトルのその絵本に文章は一切ない。捨てられた犬の話が、ごく単純な鉛筆デッサンだけでストーリー展開してゆく。実に潔い。
子供に媚びていない。なのに子供からおとなまで感動させる力がある。
作者はベルギーのガブリエル・バンサン。54歳にして絵本デビューした女流作家。少なからず影響を受けた。
彼女はボクのひとつの目標でもある。彼女のような絵本を作りたい。そう思って描いたのがこのデッサン。
(1988年 旺文社「月刊私大蛍雪3月号」掲載記事)