WORLD OF DESIGN & IDEA

デザインと発想の世界

(2001年 桑沢デザイン研究所 研究レポート「デザインと発想の世界-2」より抜粋)


左上の写真(①)は、私が学んでいた筑波大学の学生食堂なんですが、デザインという仕事で飯を食った最初の仕事です。
貧乏学生だったので、アルバイトで食べていかなくてはならない。でもアルバイトをするなら少しでもデザインに関わっている方がいい。どうしようと思った時にひとつアイデアが浮かび、大学の厚生部に「食堂のウインドウに四季折々の絵を描くと、雰囲気も良くなりますよ」と売り込みに行きました。初めて「売り込み」ということをやって、4ヶ月に1点ずつ絵を描いてギャランティーをもらったという、最初のデザイン的な仕事です。


続いて、右上の写真(②)です。妙な1970年代のファッションが出てきましたが、これは大学時代の私自身です。これは別に格好をつけて写真を撮っている訳ではありません。
オートバイメーカーのホンダからポスター制作を依頼されたのですが、我々のデザインの仕事は、最初のプレゼンテーションといって、「こんな感じのポスターを作りますよ」というアイデアを提出しなくてはいけません。かといって当時貧乏学生だった私はプロのモデルやカメラマンを雇う金がないので、自分がモデルに扮し友人の写真マニアに撮影してもらい、このスライドでプレゼンテーションしました。そして実際のポスターに採用してもらったといういわゆるプレゼン・ツールです。この様に学生時代は自由闊達にそういう事をやっていました。


次のもの(左中③の写真)も随分古くさい髪形で時代を感じますが、これは晴海の見本市会場で毎年行われるビジネスショーに招待作品として展示された時のものです。いわゆるカラー複写機が出始めた頃、ゼロックス社に交渉してコピー機を使わせてもらい、色々な作品を作りました。

コピー機というと、普通は書類をとったり、平面的なものをとるという発想しかありませんが、私の場合は手をとったり顔をとったり、つまり立体をとって作品が作れるのではないかという発想で始めました。今では立体をコピーする事も普通ですが当時は誰もやっていませんでした。


一番下の写真⑤は、最初の個展の頃のコピーアート作品です。手や顔をイメージに使ってカラー複写機で作品を作りました。今では「コピーアート」という言葉は認知されてきましたけれども、当時は殆ど知られていませんでした。今でも、私がこういうカラーコピー機で作品を作って出品すると、「こんな作品は僕にも作れます。」という方がいます。返す言葉はひとつだけ。

「じゃあ、なぜ先にやらないのですか。」

誰でも出来る発想を先にやる。これが一番大事なアイデアでありオリジナリティーなんです。やれない人に限って「僕でも出来る。」と言います。


右中④の写真は、何の変哲もないタバコやガムのパッケージの様ですが、これは全部カラー複写機でとった作品です。今でも百貨店に「面白グッズ」として置いてあります。皆さんでも簡単に作れます。

タバコやガムのパッケージをきれいに分解してコピーをとって、また糊で組み立ててビニールを掛けると、本物そっくりに出来るけれど、本物ではない訳です。ここがアイデアなんです。尚且つ、縮小拡大コピーをかければ、小さいSeven Starsから大きいSeven Starsまで出来る訳です。これを箱にセットで入れて「子分スターから親分スター」という洒落やウィットのあるアイデアだけを売ってしまうのです。誰でも作れるので、作ってしまえば何という事はないんですが、これが<デザインと発想の原点>の様なところがあります。