モノタイプ

78月 - による Author - 0 - ART WORKS MONOTYPE

 

モノタイプは一つの版から基本的に一枚の版画を刷る技法であり「モノプリント」ともいう。ガラス板、銅板、アルミ板などの上にインクや油絵具などの描画材を用いて描画し、その上に紙をのせて圧力をかけることにより、版に描画したイメージを紙へと転写する版画技法である。

モノタイプの「モノ」はギリシャ語であるMONOS(モノス)から由来した言葉であり、このMONOSは「ただ一つの」という意味を持っている。このことからもわかるようにこの技法は、版から同じイメージが一枚のみの印刷しかできないことが大きな特徴であり版という性質に対する矛盾を感じる不思議な技法である。

版画の本質が複数性にあるとすれば、モノタイプは版画の範疇ではなくタブローという面も持っているかもしれない。版を媒介とするタブローと考えた場合、このプロセスの魅力は印刷の際の圧力によって生じる画面のテクスチャーが大きいと思われる。

「TIPICA」

この技法の最初の例は、1640年代にイタリアのカスティリオーネの作品が現存している。また、ドガがこの技法に夢中になり約300点のモノタイプ作品を遺したことも有名である。さらに近年では、アメリカにおけるプリントリバイバル以後の版画概念の広がりにより、この技法を手掛ける作家が増加している。

いままで、グラフィックデザイナーの仕事、長年の「コピーアート」による制作発表、ロットで生産されるデザイン商品の展開など、数を送り出すことへの魅力に取り憑かれて来た私は、たった一枚しかできない「モノタイプ」の世界を教えられ一度刷ったらもう二度と同じものは表現出来ないもどかしさや緊張も感じていた。

しかし、モノタイプの刷り終えた版面は次の新しい表情を見せて、この状態でもいいし、あるいはこの状態になんらかの変化を加えて「さあ、もう一度プレスしてみろ」と言わんばかりに私に迫ってきた。この瞬間の一枚はもう再現出来ないけれど、ここから別の面白い、不思議な、思いがけない、あるいは変なビジュアル世界へと私を誘った。生臭い言い方をすれば生きていることにかなり近い感覚だ。

 


1回目のプレスから、マスキングの位置を替えたり、スクラッチで大胆に描画したり、布でインクを拭き取ったり、インクをこぼしたり、一枚の版で飽きるまでおよそ10枚くらいの作品がバリエーションで完成した。同じものはなくても、「同じ版」という親から10人のこどもが生まれるなら、これはれっきとした版画だと実感した。

一枚目の刷りの感動を終えるとさすがに数十枚も刷れば、ルーティンワークとまでは言わないが刷りの感動が穏やかになっていく他の版表現に比べて、最後まで、次に何が起こるかわからないモノタイプには私に多様な発想を与えてくれる。

モノタイプのように生きるのは大変かもしれない。

 

制作協力:門馬達雄(版表現印刷家/金沢美術工芸大学非常勤講師)