イタリアのデザイン教育機関及び授産施設等の視察報告⑥

199月 - による Author - 0 - WORKSHOP

 

ダウン症候群患者 スレマン・アブデラ氏 作品

□スレマン・アブデラ氏(ダウン症候群患者/L’AIAS絵画指導者)との対談

口でドローイングする様子を見せてくれるスレマン氏

S(スレマン氏):私もこの国の芸術協会に所属しています。ここの施設(イタリア・ダウン症候群援助活動協会)では絵画指導者として4時まで働き、家に帰ってから3〜4時間制作します。60✕80cmの絵画作品なら2ヶ月かかります。制作は6〜7時間続けても大丈夫だし、仕事として依頼されれば8〜14時間制作に取り組む時もあります。

 

O(おーくん・あきら):プロフェッショナルですね。

S:ブレラ大学を卒業し、芸術学士を持っています。

O:どうしてアートを始めようと思いましたか?

スレマン氏の描画補助器を試してみる

S:私はエリトリア出身で、14歳の時にエリトリアとエチオピアの戦争があり、学校閉鎖のため勉強が出来ませんでした。その時絵を描いている人を見かけ、何もすることがなかったので暇つぶしに自分も描き始めたのがきっかけです。エリトリアには、障害者の施設がありませんでした。この障害のある手でも描けますが、とても疲れてしまうので自然と口を使って描くようになりました。

読み書きを覚え、普通の学校へ通いました。ハンディがあるので優秀でないと校内で認められないため、努力し、一番の成績で卒業しました。20歳の時姉がイタリアにいたので、何か良い治療法がないかとこちら(ミラノ)に来ました。長い時間治療方法を探して病院をまわりましたが駄目でした。しかし、その時手の治療は諦め芸術の高校へ通い、その後ブレラ大学の絵画学科へ入学しました。卒業後、障害者に対して今の施設でボランティアを始めました。その後正式に採用され1990年から働いています。

O:今までのご努力の中で難しかったことは?

S:こういう性格だから、いつも楽しくやっている。いろいろ待つことをしなければならないので忍耐はいります。障害者の人が家でアートをするというのはなかなか大変で、まずは楽しむことが大切なんです。

今年の夏に、6〜11歳の健常者を対象にして絵のワークショップをして欲しいと招待を受けました。アフリカの部落をイメージさせて、アフリカ人の姿を描くのではなく動物のイメージをいろんな色を使って伸び伸び描くよう指導しました。30名の子供達はとても楽しく、満足した様子でした。もちろん私も楽しめました。主催者からも好評で夏休みの間だけでもよいのでレギュラーでワークショップを続けて欲しいと依頼されました。

O:私の授業でも最初に似たような方法で色材表現というのを学生にやらせます。

S:画面を思いっきり汚してみろと言って、楽しんでやりました。

O:そうですね、私は障害者のデザインワークショップを日本の色々な場所で展開しています。今後さらに広げたいワークショップは、障害者と健常者が一緒になって楽しむデザインワークショップなんです。今日お会いしてスレマンさんが自然な形で健常者に絵を指導していることに感動しているし、ホッともしています。

S:障害者の画家なのではなく、たまたま画家が障害も持ってるだけです。どのような人が描いたかは関係ない。

O:最初に質問したことと関連しますが、1人のアーティストとして、もっと健常者のワークショップを増やしていって欲しい。

S:約束します。

O:どうもありがとう。

 

今回の訪問で特に印象に残り、本研究テーマであるワークショップ活動に焦点をあてれば、ミラノにあるダウン症候群患者スレマン・アブデラ氏との会見はとても印象的だった。またイタリア・ダウン症候群援助活動協会の授産施設、活動にも魅力を感じた。そこには様々な差別を中途半端な切り口で対応し、敏感になっている日本と違い、差別、むしろそれぞれの違いというものを真っ向から受け止めて、お互いを認識し合っている様子に胸を締め付けられるおもいだった。