オンダとジャマハ

308月 - による mijomijo - 0 - ART WORKS ESSAY 木版裏彩色

 

はっきりいってオレはオートバイの運転がヘタだ。運動神経には自信がある方だが、とにかくヘタだ。それも跨いだとたんに倒れたり、ゆっくり路地を左折しようとして、そのまんま横倒しになったり、とにかくアホらしいコケかたが多いのである。ヘタなやつは、バイク乗りをやめろといわれたら、オレは何もいわずにやめにゃいかん。オレがヘタなのはちゃんと練習した免許で乗ってないからかもしれない…。

 

外務省の仕事で、中米のホンジュラスという国に二年滞在したことがある。中米はトロピカルランドだから、のんびりしたところがある。でも都心は世界中どこでも同じだ。高層ビルが立ち並び、その合い間を縫うように曲がりくねった細い道が、車と人を抱え切れないという表情で地面にへばりついている。

国立美術学校、国立大学でそれぞれ美術、デザインの講義を持つことになったのだが、さて「足」が必要になった。幸いにも交通局から大使館を通して、四輪二輪それぞれの免許を交付してもらった。公務(オフィシャル)ということで手続きも早く費用もかからなかった。日本じゃ原付の免許しか持っていなかったので、外国の免許とはいえ嬉しかった。でも日本で原付以外に乗ったことのなかったオレは、めんどくささと億病なところもあって、結局二年間四輪にも二輪にも乗らず(乗れず?)学校へはバス通勤をし、二枚のライセンスは放ったらかしだった。

オートバイは世界中の若者を魅了している事は知ってるだろうが、中米でのバイク人気もすごかった。

「アキラ、やっぱ、バイクはオンダ(スペイン語でホンダのこと)だよな」

「ん? うーん…」

「いや違うぜ、スタイルならジャマハ(ヤマハのこと)に限るぜ」

「そ、そうだなァ、でも、スズキやカワサキのもいいぜ」

「なんだい?スズキ、カワサキ?人の名前かい?」

中米では圧倒的にホンダ、ヤマハが有名だった。

 

「TIEMPO」…和紙に木版・アクリル絵具による裏彩色 297mm x 210mm 2008年

二年の仕事を終え帰国して一週間経ち、思いたってオレはこの二枚の中米で取得した免許とオフィシャルパスポートを持って府中の試験場、国際免許課を訪ねた。タダでもらって来たようなもんだからダメでモトモトという気持で「日本免許への書き替えをお願いします」とだけはっきりいって持って来たものを提出した。数分間、そのスペイン語で書かれた二枚の免許をワケがわからなそうにマジマジみていた係官は

「二年間御苦労さまでした。一応目の検査だけやってください」

実にあっけなく日本の免許は取得出来てしまったのだ。それにあの試験場特有の冷たくて不親切なイメージを吹き飛ばすかのように「二年間御苦労さま」なんて言われたものだから気分のいいこと!

というわけで、車体の軽い原付から突然練習もせずにデカイのに乗っているもんだから、重さに負けてしょっちゅう立ちゴケするのは当たり前。この中途半端なライディングでよくぞここ20年、TOKIOのド真中を無事に走ってこれたかと思うと自分に感心してしまう。

とにかく日本は免許取るのが大変だ。お金もかかるし時間もかかる。「昔の免許」を持っているオヤジさんに聞くと「イヤー無免許で公道で練習して、適当に出来るようになったら試験場で一発試験さ。みんなそうだったよ」古き良き時代だったなあ。

こんな免許受難の時代だから、このあいだみたいにワイロもらって免許を発行したの何のとかまびすしいことになるわけで、中米にはまず、この「ワイロ」なんていう言葉自身が存在しないんじゃないかと思うくらいだ。

教習所がほとんど存在しない国、「免許はダイレクトに買うもの」という感覚があってもおかしくない。つまりどんな役所でもワイロは当たり前。ワイロなんていうと聞えが悪いが、日本だって昔から、袖の下に始まって、心づけとかおひねりとかの人脈形成の手段がある。

ひとつの生活の知恵だけれど、日本はそういう部分をなんとなく陰の場面に置きかえたりしてお互いの人間関係を作ったりしているが、外国、少なくとも中米の「ワイロ」はとにかく明るいワイロなのだ。健康的ワイロなんてあるのかどうかわからないが、後ろめたさもなく、堂々とお金のやりとりをしてしまう。

これはホテルやレストランのチップの感覚にも通じているような気がする。しかしこの明るさが、パブリックな面に、より生かされてしまっているから困ってしまう。つまり公的機関である。

役所の手続きをスムーズにするとき、郵便局、電話局、学校、その中でも警察、特にヒマにまかせて検問しているポリスが最悪。中米の警官、特に外勤の連中はとにかく年が若い。人生経験の浅い連中が社会を守ろうというのだから困ってしまう。

中米はまだまだ貧乏な国々が多い。そんな国でてっとり早くメシが食えて多少の小遣いももらえる仕事が警官や軍隊だ。だから腹のへった連中が集まることになる。