素材との出逢い

38月 - による mijomijo - 0 - ART WORKS EMBOSS

 

和紙によるエンボス版画

色を沢山使った作品を作っていくと、お肉を食べ過ぎた後にさっぱりしたサラダが欲しくなるのと同じで、今度は全然色を使わずに何か表現できないかと考え始めました。すると幸せな事に和紙メーカーから「うちの和紙を使って何か作ってみないか。」という申し出があり、様々な和紙を提供してくれたのです。そこでエンボッシング(型押し)の版画を作り始めました。

私は素材との出会いに恵まれていて唯でもくれるものは何でも使ってやろうという気持ちでやって来ました。つまり、それぞれ提供いただいた素材を生かして作品を考えようとして来ました。

長年そうやって制作してくると、ひとつの方法が見えてきます。つまり何かアイデアや発想を生む為には、何となく思考するのではなく、やはりきっかけが必要になるという事です。つまり素材は発想のモチベーションであり、素材が発想を生むのです。

 

エンボス版画展(有楽町西武)

作家というのは素材にこだわります。只、ひとつの素材にこだわる事も多いのです。それは世の中がそうだとも言えるでしょう。画家を油絵画家や日本画家に分けたり、日本画家は顔料しか使わないとかです。

日本は兎角ひとつの枠の中に嵌めたがります。ひとつの肩書にしたがります。

昔、自分が企画したイベントに寺山修司さんを呼んだ事があります。その圧倒的な存在感は今でも覚えていますが、彼の残した言葉で「私の職業は寺山修司だよ。」というのが大変印象的です。人間の多面性や多様性を物語っている気がします。

グラフィックデザイナーから画家に転向した横尾忠則さんも日本では珍しい美術家です。絵の具からコンピュータまで様々な素材を自由に使って、スタイルにこだわらない創作活動を続けています。

創作は一番自由であって欲しいと思います。それなのに多くの作家が自ら素材やスタイルを決めて、自由を失っています。色々な材料を使ってこそ、新しい発想や表現が生まれてくるのが本当だと思います。

 

和紙制作風景

さて、こうして和紙メーカーからの和紙で版画を作っていると、また欲求不満になります。我々の仕事は満足したら終わってしまいます。1つの仕事が終わった後に不満ややり残した事が出てくるから、次の事が出来るという面白さがあります。到頭、どうしても自分で漉いた和紙で作品が作りたくて、埼玉県・小川町の和紙工房を紹介してもらい、自信満々で紙漉きに行きました。ところが、1日試みても1枚もちゃんとした和紙は漉けません。当たり前です。20年かかって得た職人さんの技術に1日で近づける筈がありません。でこぼこの紙しか漉けませんでしたが、ここにも尊敬できるプロフェッショナルがいる事が解って最高の幸せでした。

 

アベ・ケンショウブティックにてエンボス版画の販売

和紙の版画というと伝統工芸作品売場等に置かれがちですが、それではなし崩しにされる気がします。そこへ、ファッションデザイナーのアベ・ケンショウさんのショップから、何か作品を置いて欲しいという依頼がありました。彼のデザインした服やジュエリーと一緒に和紙の版画を置きました。これが売れたのです。

服を買ったついでに和紙の版画もというのはミスマッチな感じですけれど、これも発想の転換なんです。それから、発想には「勇気」も必要です。何かを決めなければいけないとき、違う視点から思い切ってやってしまう事は大切です。